【ウルトラインタビュー】声優界のレジェンド・羽佐間道夫さん 「ことば遣いを丁寧にするっていうのは、やっぱり良い映画にしか潜んでいないんだよ」

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ニッポンを代表するレジェンド声優の1人・羽佐間道夫さん。シルヴェスター・スタローンの吹き替えやニュース番組のナレーションなど、いまもなお現役でご活躍されている羽佐間さんですが、「声優口演」という無声映画に声優がライブで声を吹き込んでいくイベントをライフワークとされています。

ただいま「ウルトラJ」でもシリーズでお伝え中の 上野浅草を舞台に、いとうせいこうさんが総合プロデューサーを務め、今年で9回目を迎えるコメディ映画の祭典「したまちコメディ映画祭 in 台東」(略称・したコメ)ですが、その第1回目から声優口演ライブの企画・運営を手掛けてこられた羽佐間さんに、声優口演を始めたきっかけやその挑戦、今年の演目である小津安二郎監督「淑女と髯」にかける想い、「ウルトラQ」出演時のお話しなどをたっぷりと伺いました!


■「ウルトラマン」と羽佐間さんの意外な接点

――羽佐間さんは「ウルトラQ」にもご出演されていますが、ウルトラマンの思い出はありますか?

羽佐間道夫さん(以下、羽佐間):え~本当!? どんな風に出てるの?

――第26話「燃えろ栄光」の冒頭で、プロボクサーのダイナマイトジョーにインタビューするアナウンサー役でした。

羽佐間:ワンカットだな、忘れちゃったよ(笑)。後楽園のボクシングの会場で撮ってたんだと思うね。その当時、僕たちは芝居をやってたもんだから、どうやってキャスティングされたのかは覚えてないな。

■声優口演ライブを始めたきっかけ

――そもそも声優口演ライブを始めたきっかけとは?

羽佐間:始めたのは野沢雅子(※1)と2人きりで第1回目のしたコメ(したまちコメディ映画祭 in 台東)」の数年前ですね。もともと3大喜劇王を吹き替えで征服したいなっていうところから始まって、雅子に話したら、「いいわよ。手伝うわよ」っていう話になって。それからずーっと彼女と一緒にやってきたんですよ。長野県の善光寺のそばの小さな会場で邦画をやったんだけど、お客さんが来なくてね。それが、やっていくうちにだんだん手ごたえが出てきて。そのうち、松竹から「小津安二郎の無声映画があるんだけど」って話になって、ずいぶん長い間折衝をしてね。

――折衝といいますと?

羽佐間:僕が「字幕を切ってくれ」って言ったの。なぜかっていうと、字幕が「お前そうだろ」って出たあとに、その台詞どおりのアクションがくるわけ。それは二重構造だから字幕を切らしてくれって言ったら、そこはもう、もめてね。切らしてくれないんだよ。「ワンカットも触らないでください」って。だから不向きだなと思って。そうしたら、たまたま日本チャップリン協会の会長の大野さんが観て、「じゃあ僕、なんとかそれでトライして原稿作ってみますって」。それでも僕は不満なんだけど。我々がしゃべるんだったら字幕はいらないわけだよ。

――なるほど。

羽佐間:そこが長年の葛藤になっていたんだけど、今回、松竹の山内静夫プロデューサーが「面白いんじゃない?」って。「字幕を切らないでいてくれるんなら、それにこしたことはない」と。で、結果どう思うかだよね、皆が。「煩わしいな、字幕は」という声が出てくれば、「じゃあ字幕切りますか」っていうことになるかもしれないし。ちゃんとその後に言葉が出てくるんだから。小津安二郎が名監督であるというのはもちろん聞いているんだけど、それはそれでね、私たちの手にかかるとこうだよ、っていうのがやりたかったんだよ。

――でも、ここからまた新たな展開があるかもしれませんね。

羽佐間:そうなんだよ。斎藤寅次郎(※2)とかいろんな人がいろんな風に無声映画作ってるわけだから、それを少しずつ今の人たちに見せたい。なぜかっていうとね、格子戸をガラガラってやって、「こんにちは」って、朝ドラなんかではやってるけどさ。上がると長火鉢があってさ、で、おばあさんが「さ、お茶をどうぞ」っていうような、そういう生活文化みたいなのが、わんさか出てくるんだからさ。若い人たちに「へぇ~」って思わせることがあるだろうし。今回のは、戦前、外国映画に刺激された小津安二郎が作った映画でね。

――そうですよね。まさに小津安二郎の初期の作品は、ハットをかぶってピストルを持っていたり、「東京物語」とも全然違いますよね。

羽佐間:そう、だから今回は音楽もセンチメンタルな曲をつけようっていうことになって、いろんなジャンルにトライするんですよ。「街灯」っていうのがシャンソンにあるんだけど、それをわざと街灯がバーっと流れていくところに付けてみようかなって。なんか面白い発見ができればいいなと思ってね。

――やっぱり、当時の活弁を再現するというのとは全く違いますね。

羽佐間:新しい何かが無ければね。だけど言葉自体はすごく大切にしたいなと思うんですよね。今回、日本チャップリン協会の会長の大野さんが台本を作ってるんだけど、それを僕が全部アレンジしてやってるんで、すごく時間かかってね。基本的にはリップシンクロなんでね、唇が開いてる長さだけしかセリフを入れないようにしてる。

小津さんっていう人は、抑揚をつけるセリフはいらないっていう人だよね。だから笠智衆(※3)も「僕のところへ来なさい」「そんなことはないよ」みたいな抑えた発音だよね。寅さんの時もだけど、小津さんはそれが気に入ってたらしいね。それはちょっと表現できるかどうかわからないけれども。

――そもそも声優口演ライブを始めた頃は、抑揚を表現したいという想いがありましたか?

羽佐間:いや、そうとは限らないんだけど、チャップリンとか外国映画のなかには、そのままだとわからない部分も沢山あるわけだから、それをセリフで後押しするんだよ。僕ね、ディーン・マーチンなんかやってるときには、広川太一郎(※4)もそうなんだけど、アドリブするわけ、バックショットで。要するに、足りないなっていう部分を補う意味で。だからベッドシーンでも、ディーン・マーチンが帰り際に「ちゃんと着るものは着てね」って。そんなセリフは書いてないんだけど、そういうのもパッと言っていなくなっちゃう。背中でしゃべっちゃってる。

――リップシンクロだけじゃないんですね。

羽佐間:そう。後ろ向きでもわかるようにして。そういう工夫はずいぶんしましたね。太一郎は太一郎でね、「トンボの眼鏡のクソ!」って、意味がよくわからないようなセリフをあいつは放ってたけど。

――声優口演ライブは「したコメ」でも今年9回となりますが、いままでで印象的だった回などありますか?

羽佐間:まぁ、印象的といえばみんな印象的で、少しずつみんな違ってますからね。やっぱりね、チャップリンを山寺宏一が一人で演じていったっていうのは、これは一つの目玉になってたと思うんですよね。普段ライブで観てるっていう人は意外に少ないから。同じ時間に同じ空気を吸いながら。

――それが醍醐味ですよね。

羽佐間:そう。新しい形の声優口演だな。口演も口を演じると書いてあるんだけど。いままで9回やってきた中で、むしろ主催者側にいろんなデータがあると思いますけど、老若男女よろこんで観て帰ってくれてますね。

■小津安二郎監督「淑女と髯」を大胆にアレンジ

羽佐間:前々から思ってたんだけど、無声映画って喜劇が多いんだよね、なぜなんだろう。この「淑女と髯」もコメディで、小津安二郎作品がコメディであるという認識をみんなあんまり持っていないけど、昔の映画って大体コメディかチャンバラなんだよね。浅草っていうところで言えば、ずいぶんあの辺で活弁が流行ってたんだと思うんだよね。そんな因縁もあるんだけど、ちょっと掘り起こすとなかなか面白い作品があって。

チャップリンなんか、「8時だョ!全員集合」のドリフターズのもとになっているようなネタがいっぱいあるわけだから。チャップリンの仕掛け、ずいぶん盗んでるはずだよ。せっかく映像が残ってるんだから、原点を探る意味で、もう一度観るっていうね。その映像に合わせてしゃべってるんだから。ちょっと「骨董品の火鉢とは違うぜ」っていうね。しかも、出てくるのがまた、昔の人にとってはたまらない二枚目。岡田時彦とかさ。

――本当にハンサムですよね。

羽佐間:いやぁ、いまハンサムかどうかはわからないけど。月田一郎とかね。

――数年まえに神保町シアターで小津安二郎監督の特集上映が開催されていたときに初期の作品を観る機会があったんですが、その際は活弁でした。

羽佐間:活弁っていうのは客観的にしゃべるっていうか。

――ト書き的にストーリーをつないでいく感じですよね。

羽佐間:そこが活弁と声優口演の違いで。私たちは基本的にはリップシンクロをやりたい。活弁は要するに客観的に「次郎さんが来ます」と。次郎さんは「おいお前」くらいのことは言うかもしれないけど。

――活弁は一人で女性の声も男性の声も付けられますからね。

羽佐間:そうそう。澤登翠さんがずーっと続けてきて、これはこれ独自の文化があると思うんだけど。僕らは自分たちの職業をそこに置いたら、たまたまこうなるねってことでやってる。活弁と声優口演では、味わい方がまた違うわけだけだから。一緒にやったこともあるんですよ、別々のプログラムで。活弁も古くからやっているからはファンが沢山いるんですよね。活弁は必ずフィルムを回すんです。

いつか「したコメ」の声優口演ライブにも、いろんな人たちが参加してくれるといいなと。綺麗な女優さんを、吉永小百合さんでやってみるか、とか。こないだ黒柳徹子さんは「やってもいいわよ」って。「チャップリンをやるときは言ってね」なんて言われたけど。

――実現したらまた新たな伝説が生まれそうですね。音楽もその場で付けられるんですよね。

羽佐間:いろんな形をとってますけどね。3本目か4本目のときは、どうしてもサックスが欲しいなと思ってたら、たまたま銀座を夜中に歩いてたらね、サックスの音色が聴こえてきてね。要するに街のミュージシャン、大道芸なんですよ。それで「手伝え」って言って「したコメ」で一緒にやったこともあるよ。

僕は大道芸が大好きで、ギリヤーク尼ケ崎っていうね、津軽三味線で赤い長襦袢と赤いふんどしで踊る人がいてね。数寄屋橋のたもとで、もう10年くらいまえかな。だんだん顔なじみになってくるとね、「ちょっと交番から見えない位置に立っててください」とか言われてね。

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