大ヒット上映中の「この世界の片隅に」制作秘話も披露 日本のアニメ映画を文化的に考えるシンポジウムをレポート

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2016年10月25日(火)~10月30日(日)にて行われた、第13回文化庁映画週間。その5日目となる29日(土)に東京国際映画祭の一環で開催されたシンポジウムでは、ニッポンの映画文化の旬なテーマを取り上げ、映画の世界で今求められていること・取り組むべき課題について、業界人を招いてのディスカッションを行いました。

今年のシンポジウムのテーマは「アニメと映画」。ゲストには片渕須直監督・神山健治監督・瀬下寛之監督の3名が招かれ、進行は井上伸一郎さん(株式会社KADOKAWA 代表取締役専務 執行役員)が務めました。劇場アニメの最前線で活躍されている監督の口から語られる、アニメへの思いとは一体どんなものなのでしょうか?

■アニメで再構築するリアリティー

最初に登壇したのは、片渕須直監督。片渕監督の最新作「この世界の片隅に」が、本シンポジウムの2週間後となる11月12日(土)に全国公開を控えていたこともあり、制作秘話についても多いに語られました。本作の制作にあたり、ひときわ注力したのが、緻密な舞台背景の構築にあったといいます。

本作は、第二次大戦中の広島県呉市が舞台。今はなくなってしまった当時の呉市をよりリアルに描くため、ロケハンはもちろんのこと、当時の米軍の航空写真をはじめ様々な資料を集めたとのこと。

「今はなくなってしまった風景を描くため、アニメーションは想像力の産物なんで、想像を膨らませる。膨らませはするんですけど、今回は出来るだけ想像を介さないようにしました」

想像よりも実際に資料をかき集め、登場人物たちの視線に見える景色を、実寸で緻密に描いていく。その緻密さは、そこまでやる必要があるのかと思ってしまうほど、細かなところにまで及んでいます。また、資料を集める中で思わぬ発見もあったといいます。

「(ドラマなどで)戦時中の窓ガラスといえば、米印に紙が貼ってあります。でも当時の写真を照らし合わせてみると、やってないんです。映画的な嘘だったんですね」

1シーンにしても、そこに映る建物一軒一軒まで緻密に調べるなど、膨大な資料に基づいて描かれています。だからこそ、描くことができるリアリティーがあると監督は語られます。

「戦後70年で、(映画などで)どんどん記号化されてしまった戦争を再構築する。それをアニメーションが担うというのは、自分的には面白いなと思っています」

■社会問題の中で描くアニメーションとは

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「物語の中で人々を救っても、現実の中でそれをすることはできない。それに、打ちのめされていた部分があったんです」

2012年に公開されたご自身の監督作「009 RE:CYBORG」の制作中に、3.11が発生しました。神山監督は、これまでも「東のエデン」や「攻殻機動隊S.A.C.」シリーズなど、世界を救うストーリーを多く手がけており、「009 RE:CYBORG」でも、それを描いていました。しかし、3.11を経験したことで、精神状態は制作開始時とは全く異なっていったといいます。ですが、今更ストーリーを変更することができない。この時の無力感のようなものから、作り手として初めて迷いが生じたといいます。

神山監督は、岡山県倉敷市が舞台となる来年3月公開予定の最新作「ひるね姫」を制作するにあたり、「(自分の)娘に見せる為の映画をつくりたい」という動機からスタートしたといいます。一方、震災後ということもあり、こうした個人的な思いで映画をつくってもいいのだろうか、という疑問もあったいいます。そんな時、映画の題材を探して1人旅をして、偶然足を運んだ瀬戸内海の児島(岡山県倉敷市)が、新作「ねむり姫」の舞台となったと語られます。

公開前の作品のため、内容については多くは語られませんでしたが、神山監督は本作を描く際、「共通体験」から着想を得ていったと語ります。現実とファンタジーが交差する物語であっても、そのヘソ(あるいは根幹)となり、ブレない部分があるから届けられるものがある。個人的な動機がスタートとなった作品ですが、神山監督なりのメッセージのこもった作品になっているとのことです。

■新しい映像表現としてのCG

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出展:http://bunka-cho-filmweek.jp/symposium.html

手描きとCGが融合しつつある現在のアニメですが、今でも主流となっているのは、「スタジオジブリ」に代表される手描きアニメです。この手描きアニメが、日本独特のアニメ文化の象徴とも言えます。そんな中にあって、アニメーション映画「GODZILLA」も手がけている瀬下寛之監督は、日本のCG表現の草分け的な存在です。CGを使った新しい映像表現を次々と開発してきた瀬下監督が、「本格的に感動できる、ストーリー・キャラクター・世界観をCGで表現できないか」と考えて、行き着いたのが「セルルックCG」でした。

この表現方法は、3DCGをセル画に似せて表現する手法のことで、CGアニメーションながら手描きアニメに比較的近い映像になります。2014年に放送されたTVアニメ「シドニアの騎士」では、全編でこの手法が導入され、大きな話題を集めました。現在では、「セルルックCG」が一つのジャンルとして認識されるまでになっています。また、2015年から劇場とTVで展開されている「亜人」では、役者の演技(動き)を取り込んで、CGに反映する「モーションキャプチャー」を加えることで、さらに新しい映像表現に挑んでいます。

しかし、瀬下監督はセルルックCGについて、手描きアニメを再現するものではないと語ります。手描きアニメをリスペクトしつつ、今でも進化し続けているマンガ文化やグラフィックノベルの表現を取り込み、手描きアニメとはひと味違った映像表現を目指しているといいます。2017年に公開予定の新作「BLAME!(ブラム!)」では、さらに磨きのかかった映像表現を見ることが出来るのではないでしょうか。

■ディスカッションを終えて

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ディスカッション後、進行を務めた井上伸一郎さんは、2016年という年について、「君の名は。」や「シン・ゴジラ」(実写作品ではあるがアニメ監督・庵野秀明さんが手がける)などの大ヒットを受けて「今年ほどアニメ映画が、日本映画を牽引した年はない」と語ります。こうした現象は今年が特異ではなく、今後さらに加速すると井上伸一郎さんは予測します。

「これまで、アニメ映画といえばスタジオジブリでした。アニメ映画であれば、ジブリ作品を見ておけばいい、という風潮もありました。しかし、ジブリが新作を作らなくなったことで、アニメファン・映画ファンがどんどん新しいクリエイターを発見し始めている時である」と言います。今回、ゲストで招かれた3名のアニメ監督をはじめ、これからアニメクリエイターが日本映画界にどのような影響を与えていくのか。各監督の最新作とともに、目が離せませんね。

■片渕須直監督作品
「この世界の片隅に」
http://konosekai.jp/

■神山健治監督作品
「ひるね姫」
http://wwws.warnerbros.co.jp/hirunehime/t2/about.html
「CYBORG009 CALL OF JUSTICE」
http://www.cyborg009.jp/

■瀬下寛之監督作品
「劇場アニメ「BLAME!(ブラム!)」
http://www.blame.jp/
アニメーション映画「GODZILLA」
http://godzilla-anime.com/index.html

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第29回東京国際映画祭公式サイトはこちら
開催期間:2016年10月25日(火)~ 11月3日(木・祝)
開催会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用

映画祭の魅力や楽しみ方はこちらの記事をご参考ください。

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