【ウルトラJ文楽入門特集・その3】竹本千歳太夫さんと豊澤富助さんに訊く! 太夫と三味線の表現の魅力とは?

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■物語を語って弾く――。文楽に欠かせない太夫・三味線の魅力をお届け!

ウルトラJでは、「ウルトラマン」と同じく今年50周年を迎えた国立劇場とのコラボレーション企画として、特撮作品にも影響を与えた「文楽」の魅力に迫るべく、全4回の入門特集をお届け中です!

人形と首(かしら)について解説した第1回、三人遣いについて解説した第2回目に続いて、特集3回目では、語り手である太夫の竹本千歳太夫さんと三味線演奏者の豊澤富助さんをお迎えし、貴重な楽器なども見せていただきながら、「太夫(たゆう)」と「三味線(しゃみせん)」の基礎知識と文楽の楽しみ方について教えていだきます。

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▲写真左が竹本千歳太夫(たけもと ちとせだゆう)さん。右が豊澤富助(とよざわ とみすけ)さん。

――文楽において、「太夫」と「三味線」は切り離せない存在だと伺いました。それぞれどのような役割を果たしているのでしょうか。

竹本千歳太夫さん(以下、千歳太夫):太夫は、いわゆる物語の「語り手」なんです。人形は役者と違ってセリフをしゃべりませんからね。太夫が舞台を進行していく役割を担っています。

豊澤富助さん(以下、富助):文楽における三味線は、単なる伴奏音楽ではありません。太夫の語りと並んで、人形の心情や舞台の情景を「音」で表現する役割を担当します。「オクリ」と呼ばれる節を弾いて演目が始まることが多いんですが、本来音が存在しない部分でも、あえて空虚感を表すために「トーン…トーン…」と三味線を弾き続けることもあるんです。聴かせることで、音がないということを際立たせている。

――いわゆる漫画でいう「シーン」という擬音語に近い感じですね。

富助:そう。弾くことによって、より静けさを際立たせる演奏方法があるんです。より「シーン」とさせる。その間太夫は息を詰めている。たとえば、特に「仮名手本忠臣蔵」の九段目は最初から最後まで、一瞬たりとも気を抜けないとよく言われているんですが、最初から最後まで非常に緊張感あふれる場面が続きます。

千歳太夫:三味線の、ひとバチ、ひとバチに意味があるんです。「三味線は浄瑠璃の母」と言われているのですが、三味線というのは、いわゆる「言葉の素」なんですよ。言葉が三味線の音から出てくる。

――なるほど! 太夫と三味線は、舞台の右側に張り出した「床(ゆか)」というところで並んで語られますよね。具体的にどのように進行していくのでしょうか。

千歳太夫:太夫の場合は、「床本(ゆかほん)」と呼ばれる和紙を綴じたぶ厚い本を漆塗りの「見台(けんだい)」の上に乗せて、それを読み進めながらお客様に「語り」を聴いていただきます。

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▲こちらが床本。大きいですね! 師匠からいただいたものとのこと。

床本とは、独特の太い墨文字に朱色の墨で節回しを表す「朱譜(しゅふ)」という記号を書き加えたものなんですが、自分で書く場合もあれば、先輩方から譲っていただく場合もあるんです。

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▲指さされている部分が「朱譜」。そして黒い文字は一見すると読めない字かもしれませんが、よーく見ると最初の「人」や、ひらがなの「の」や、「心」と読めてきます!
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▲最後のページには昭和32年の興行の番付が貼られていました! 「ウルトラマン」誕生と国立劇場開場9年前の貴重なものですが、床本も受け継がれているのですね。

富助:三味線は譜面を暗譜するので、舞台上では何も見ません。太夫も床本を「読む」とは言っても、あくまで目印として置いておくだけで、全部暗記してますよ。床本に記された言葉の意味を汲み取って、感情移入しながら語るんです。

――太夫も三味線も、すべての演目を暗譜して演じられるわけですね。

富助:もちろん! 毎月演目は変わりますからね。厳密にやらないと伝承される芸能ではなくなるので、決まりごとをすべて暗記して覚えていくんです。

――文楽で使われる三味線は、いわゆる普通の三味線とは違うんですか?

富助:文楽の三味線は非常に特殊なんです。多分、世界で一番デリケートな楽器だと思いますよ。津軽三味線と同じ「太棹(ふとざお)」なんですが、義太夫節をやっている人にしか絶対弾けません。なぜなら「撥(ばち)」が300グラム以上もあるから重いんです。

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▲こちらが三味線の胴のあたり。

胴に張る皮が薄くて、湿度にものすごく敏感です。糸も太めですが、絹糸だから切れやすい。そして音を共鳴させるために「駒」とよばれるものを使います。この「駒」を糸と皮の間に挟んで糸を浮かせるのですが、置く位置や駒の種類の違いによって音も変わってきます。開演の2時間前くらいには会場に入って、その日の湿度に合わせて自分で音を調整する「調絃」をしてから舞台に上がるんです。

――床本のほかに、太夫に欠かせないものとはなんでしょうか?

千歳太夫:文楽はマイクのない時代にできたものですから、何百人というお客様に聴いていただくために腹式呼吸が欠かせません。お腹に力が入るように「腹帯」という布を巻いて小豆や砂とかが入った「オトシ」という布袋を懐に忍ばせて舞台に出ます。さらに「尻ひき」と呼ばれる小さな台を敷いて背筋を伸ばし、つま先を立てた状態で、長いものだと50分~1時間くらい、最長で1時間40分もの長丁場を、一組の太夫・三味線で勤め上げるんです。大勢で出る場合もありますけども。

――もしかして、途中で足がつったり、しびれたリするようなこともあるのでしょうか。

富助:しびれます!しびれます! 三味線弾きは、正座の上にさらに三味線の重みが加わりますから。いつも一番最初に逃げ出すのは、三味線の研修生ですね(笑)※。

※大阪の国立文楽劇場には、文楽の技芸員になるための研修制度があります。

千歳太夫:でも時々足を組み替えたりしてね、ごまかすのが段々うまくなりますよ。

――ここまでお話を聞いていても、とても奥が深くて……。

千歳太夫:だからといって、取りつきがわるいと思っていただいては困るんですよ(笑) 楽しんで聴いてくれれば。

富助:面白いんですよ、とっても。

――難しいイメージで、どうしても畏まって聞かないといけないという先入観がありました。

富助:いやいやいや、楽しんで頂いたほうがこちらも気が楽なので(笑)

先入観がなくなったところで、楽しみ方解説は最終第4回へ続きます。なんと特別にお2人に実演もして頂きましたので、お楽しみに!

→第4回はこちら

■「文楽」を実際に国立劇場で観てみよう!

2016年に開場50周年を迎えたニッポンの伝統芸能の一大拠点「国立劇場」。2017年2月4日(土)から2017年2月20日(月)の期間にて、2月文楽公演「近松名作集」が50周年記念公演の1つとして上演されます。ウルトラJでも公演情報など取り上げていく予定なので、文楽入門特集と合わせてぜひ実際の舞台をご覧になってみてくださいね!

千歳太夫さんと富助さんは第3部『冥途の飛脚』の「封印切の段」を勤めます。チケットは2017年1月7日(土)より、電話・インターネットで予約開始です。詳細は下記記念サイトをご確認ください。

国立劇場開場50周年記念サイトはこちら

プロフィールPROFILE

ピグモン風子

日本古来の伝統文化から最先端のアート・カルチャーまで、ウルトラな人たちを追いかけまわす好奇心旺盛なライター。

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